SOUL INDEX

Column

2015年4月28日

” SOUL SURVEY & SOUL FREAK ” から ” BORDERLESS SOUL & SOUL OVER THE RACE ” へ~SOUL MUSIC のの名曲に共通する2つの要素と、不可避な1つの価値観

モンスターゼロ

SOUL MUSIC の名曲に共通する2つの要素と、不可避な1つの価値観

半世紀近くに及ぶ、SOUL MUSIC の歴史において名曲と呼ばれる幾多の作品には大きく分けて2つの要素がある様に思えます。

それは。。。。。

1つ:完成度の高さ

2つ:オリジナルバージョンの優秀性

3つ:セールス面における貢献度

ではないでしょうか?

以下に、この3つについてお話させて頂きます。

1. 完成度の高さ

完成度の高さと言うのは誰がどんなアレンジを施し、カバーを歌おうともオリジナル同様の出来(以下)になってしまう。

もしくはオリジナルと離れたアレンジを施しても、すんなり聴き入ってしまうということです。

ある意味、とても柔軟性のある楽曲だと言えます。

知名度とヒットした事実を優先し、代表的な曲として、マーヴィン・ゲイの ” What’s Going On ” と サム・クックの ” Bring It On Home To Me ”  の2曲を挙げたいと思います。

*What’s Going On / 愛のゆくえ

whats going on

” ニューソウル ” と言われたベトナム戦争混迷時のアメリカに対する疑問・矛盾・失望・内省等の後ろ向きな感情に60年代半ば以降激化した人種差別問題等を
歌詞に盛り込む(直接間接的言い回しも含め)と共に、音楽面でもジャズやロックの要素を取り入れた「1970年代の新しいソウルミュージック」

90年代に一度ブームが起き、今では確立された1つのジャンルの様になっています。

この、” What’s Going On ” ほど聴く人によって思いが異なる名曲も少ないのではと思います。

今で言う、ジャズファンクがソウルジャズから進化してきたのが同じ頃でもありジャズ寄りのミュージシャン達がこぞってこの曲をカバーしたり面白いところでは
当時、ロスアンゼルスのラジオ局のDJだったトム・クレイと言う人(故人)がこの曲のメロディ(カバー)をバックにDJの様に語るだけと言うユニークなカバー
もありました。(当然、内容はベトナム反戦等々)

そして、幾多のカバーそれぞれがみな素晴らしいオリジナルに仕上がっています!
これこぞが正にオリジナル曲の完成度が極めて高いと言う何よりの証しです。

What’s Going On / Tom Clay
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What’s Going On / Les McCann
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What’s Going On / David T Walker
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こんなものではありませんが、今回取り上げたものを中心に選んでみました。。。。どれも素晴らしい曲(アレンジ)ばかり。

*Bring It On Home To Me / 悲しい叫び

bring it on home to me

アニマルズをはじめカバーの多い名曲にして誰がカバーしてもそれなりに出来てしまう凄さ!

因みに今までカバーしたはざっと取り上げても。。。。。

アニマルズ / エディ・フロイド / ルー・ロウルズ / アレサ・フランクリン / ウィルソン・ピケット

ロッド・スチュアート / ジョン・レノン。。。。錚々たるメンバーにして誰もがサム・クックに対し敬意の念を持った人達と言えるでしょう。

そして、この人達のカバーバージョンのどれもが「素晴らしいオリジナル?!」と見紛うほどのクオリティを持っていると言うことです。

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ちなみにこの曲で、サム・クックのバックコーラスをしている人は、ルー・ロウルズです!

実はこの曲には「元歌」が存在します。サム・クックがリリースする3年前、1959年にリリースされた ” I Want To Go Home ” と言うバラードです。

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i_want_to_go_home_charles_brown

歌っている人がこれまたスゴい! サム・クックの先輩格、チャールズ・ブラウンとエイモス・ミルバーンの御二方。
この辺りの人は、サム大明神のみならずレイ・チャールス、リトル・リチャード達にも影響を与えた戦前からのスターです。

この2曲、聴き比べれば確かにサム・クックの方が洗練されていると思います。

更に曲としての完成度と共に、ヒットする要素。。。。

①覚えやすくシンプルなイントロとメロディライン
②共感したり引用したくなる様な歌詞
③立っていても座っていても体が動き出すリズム感
④ 記憶に残るサビ

等々がうまく取り入れられていると思います。

なお、こちらのブログにも詳しく記されておりますので参考になさって頂ければと思います。
http://soulfreak.blog.so-net.ne.jp/2014-10-15#more

上記2曲の他にも。。。。

My Girl  / The Temtations
Stand By Me  / Ben E King
Ain’t No Mountain High Enough / Marvin Gaye & Tammi Terrell
For Your Precious Love / The Impressions

の様な二桁を超える数のアーチストにカバーされている曲はどれもが完成度の高い作品でありカバーバージョンもそれぞれに個性が出ていて
聴き比べるのも面白いと思います。

2. オリジナルの優秀性

オリジナルの優秀性と言うのは、誰がどう歌おうとも(演奏しようとも)オリジナルを絶対に超えられない(凌駕出来ない)と言うことです。

唯一オリジナルに比すると言えば、完璧なるコピー/模倣しかない!。。。。そのくらいの覚悟が必要だと言うことです。

代表曲、これはもう James Carr(ジェームス・カー)の ” The Dark End Of Street ” に尽きます!

あのアレサ・フランクリンをもってしても届かない・・・・

James Carr

サザンソウルと言うより「ソウルミュージックってマジ、どんな曲を言うの?」と聞かれればサッと差し出すこの1枚。

http://www.youtube.com/watch?v=tzcdNwIkmYA&feature=kp  ⇔ The Dark End Of Street by James Carr

ところで、前述の女王アレサを初めこの曲も数多くのアーチストにカバーされてきたもののなぜオリジナルの域に達しないのでしょうか?!

バックの演奏やアレンジもあるでしょうが、それより何よりこの曲に合うヴォーカルはジェームス・カーしかいない!と言うのが私の持論です。

ヴォーカル。。。。声質と言い換えた方が良いかもしれませんが冒頭からの入り方、サビの部分でのシャウトにしてもこの曲にドンピシャリな声質
なのが半世紀近くを経た今もなお、彼しか適任者がいないと言うことでしょうね!

昨年、女王アレサ・フランクリンが久々に新譜を発表しましたが全10曲オールカバーでした。

エタ・ジェイムスの ” At Last ” を初め見事なアレサ節にアレンジしつつオリジナルへの敬意を忘れない作り方には大病を乗り越え、また1つ器が大きく
なった様にも見えて、大いに安堵しました。

今のアレサが ” The Dark End Of Street ” をカバーしたなら。。。。。昔の様な独特のアレサ節で尖った感のある歌い方ではなく、年輪から来る貫禄と
余裕の歌いっぷりでしょうし、オリジナルバックトラックで 勝負すれば。。。。。。

オリジナルばりの傑作バラードに仕上がることでしょう。。。。てことはジェームス・カーは当時の時点でお爺ちゃん?!(笑)

おそらく、当時も「歌う前からオリジナルとして完璧」などと思っているはずもなく結果論としてその様になったのだと思います。

従って、オリジナルバージョンの優秀性と言うのは、とどのつまり。。。。。

「他に代替えの効かない楽曲 With アーチスト」と言うことになるでしょう。

*ちなみにオリジナルの優秀性云々を超越した「真似の出来ない世界」となれば、 これはもうこの人に尽きますが(笑)

JB
Too Young!
更に、これは故桜井ユタカ先生の名言ですが

「最近、曲あってのアーチストと言う考え方が出て来ているがこれは間違いである。

初めにアーチストありき!アーチストがいて曲がある。これが本来の姿である!」

どんな曲もカバーすると「その人流~その人がオリジナル?」と見紛うほどのスゴイ人っていますよね。先のアレサ・フランクリンなど典型です。

そのアレサ女史をもってしても凌駕出来ない ” Dark End Of Street ” と言う曲の凄味、怖さ。。。。

正に、代替不能な楽曲&アーチストたる所以だと痛感します。

3. セールス面における貢献度

いくらオリジナルバージョンが優秀で完成度が高いからと言って、オリジナル通りにカバーすると言うのも芸がないと言うか面白みに欠けるのも本音。

でもリスナーの立場を考え、SOULなるものをどこまで知っているか?を考えた場合、どちらに照準を合わせるのか?

これは営業面での話にもつながるかも知れませんが、やはり「知らない人」に照準を合わせるべきでしょう。
企画・コンセプト・デモの段階では知っている人・プロの耳に委ね、評価を経て最終的に仕上げる(作品・商品化する)流れが通常だと思います。

そのあたりをひっくるめて考えるとSOUL MUSIC のメインストリームをしっかり把握し、メインストリートも毅然として闊歩出来る人はあくまで私見ですが
女性ならジェニファー・ハドソンくらいなのでは?と思います。

女王アレサはもとより、ジェニファー・ハドソンに共通しているのは、ゴスペル仕込みの圧倒的な歌唱力です。

SOULと言うのは「魂の叫び」です。

甘く切ないスィートソウルも最高ですがあくまで1つの要素であり、他と一線を画すくらいの強烈なイメージ・印象は、やはり力強くて起伏に富んだ バリトンや
テナーヴォイスではないでしょうか?

更に、ここが肝ですがメジャーなシーンにおける一定の認知度だと思います。なぜなら元来がSOULの世界=マイナーだからです。
ただしマイナーのままでは絶対にいけませんが。

マイナー by  マイノリティがゆえに。。。花より団子!?

売れる(稼げる)曲 & 売れた(稼がせてくれた)曲もまた名曲なり!

マイナーレーベルにキラリと光る逸材が凄く多いのがSOUL/R&Bの世界であり、ここの発掘を早めた人(国)が それぞれ独自のSOUL文化を形成出来たのは
日本・イギリス・ドイツを見れば分かります。

ただしあくまでマイナーはマイナーでしかありません。

歌っている人(アフリカンアメリカン)自身がマイノリティかも知れませんが、彼らの持つ類まれな音楽的センスと運動神経ゆえに 成し得た結果が世間に認められ
世に出た結果として「栄光や栄誉そして経済的自立=成功」へとつながり、世にいうアメリカンドリームとなるわけです。

これこそアメリカ中のアフリカンアメリカンの方々が陰に陽に目指していることだと思います。

宿命が自分で変えられない代わりに、運命は自身で切り開くことが出来る!
それならマイナーのままで終わり、何年も後になって全く知らない異国のSOULファンに発掘されたとしても、その時点で当の本人の消息やいかに?
仮に消息が分かったとしても、ライヴでのギャラとスズメの涙ほどの印税では。。。。(泣)

今なお、往時そのままに歌えて元気があり来日もOK!ならば話は別ですがそういう事例は非常にレアだと思います。

その現実を代々見てきた結果、今の若いアフリカンアメリカンのアーチスト達の世界レベルでの活躍はとても素晴らしいし戦略性に優れていると思います。

そこにはかつて白人との共同作業ながらもどこかで猜疑心や警戒心を捨て切れず、共同体意識を築き切れなかった先達を反面教師にするだけの知恵と開き直りも
持ち合わせている様です。(時代の流れも無視出来ませんが)

PIR(フィラデルフィアインターナショナル・レコード)やアイズレーブラザーズの T-Neck レコードの様にメジャーレーベル「CBSコロムビア」の配給下に入ることで
潤沢な資金を背景に大々的なA&MやPR活動も可能になることで認知度が増しヒットすることで収入増につながるかわりに、白人系にも受け入れられる曲作りも余儀なくされる=
SOULっぽくなくなる副作用もあるにはあります。

でも、Z Z ヒルのCBSでの名盤 ” Let’s Make A Deal ” やディスコ時代とはいえ恩師サム・クックばりの歌いっぷりで一矢報いたジョニー・テイラーの ” She’s Killing Me ” あたりは
70年代も後半に差し掛かった当時としては「SOUL色をしっかり残した今風(1979年当時)のアルバム」としてファンも多いはずです。

shes kiiling me
師匠サム・クックばりのヴォーカルでディスコ全盛時代に
ホッとさせてくれたジョニー・テイラーのアルバム ” She’s Killing Me ”
上記所収のミディアムバラード ” Play Something Pretty ”
http://www.youtube.com/watch?v=Imyp4V59toY

ZZ Hill

ソウル人名事典にはいつも最終に出てくるこの人!
ZZ ヒルの1978年産グレートな1枚  ” Let’a Make A Deal ”
ジミー・ルイス作のバラード ” Love Is So Good When You’re Stealing It ” ですねぇ!
http://www.youtube.com/watch?v=3aYyYwfhBMg

PIRとT-Neckの2つは良い意味で白人(日本も入る)社会に上手に受け入れられた成功例だと思います。

オーケストラ(ボビー・マーチン&MFSBショーが有名)を駆使した華麗なストリングスを多用し、ホテルのラウンジやロビーでもBGMとして違和感のない作風
(通常このジャンルはヴォーカルが入らない)に仕上げ、抜群のPR力でヒットチャートを急上昇!
流行し始めたディスコとも上手にコラボしてダンスフロアもフィリー一色!実に巧いです。

IMG_4125Universal LoveMFSB&Three Degrees

当時をときめくスリー・ディグリーズをヴォーカルに据えての1枚を含み 特に当時のディスコ世代には見覚えのある3枚でしょう!

SEXY by MFSB SHOW → http://www.youtube.com/watch?v=aiX-BE9uyVg

LOVE IS THE MESSAGE by MFSB SHOW → http://www.youtube.com/watch?v=vLg_THUncng

WHEN WILL I SEE YOU AGAIN(天使のささやき)by THE THREE DEGREES → http://www.youtube.com/watch?v=9ZxM3XbwZ2I
もしかしてこの映像「シオノギミュージックフェアー」かも?(爆)

もう一方の T-Neck、 こちらはもうアイズレー・ブラザーズオンリーレーベルと言って良く、ファンクと言うより当時はブラックロックなんて表現をしていました。

白人のロックとの上手な融合と三男坊のロナルドの奏でるセクシーなファルセットで黒人色たっぷりなスローバラード(カーティス・メイフィールドにも通ずる)

なにより時代の流れを巧みに掴んだカバーの数々。シールズ&クロフツの「思い出のサマーブリーズ」、ジェイムス・テイラーの ” Don’t Let Me Be Lonely Tonight ” はどっちがオリジナル?と判断しかねるほどの完成度。その前にも、キャロル・キングの曲をカバーしたり折からのSSWブームにもちゃっかり便乗するなど、したたかで計算高い面も持ち合わせています。

元々は、ブッダレコードに配給を任せていた T-Neck ですがファーストこそ華々しかったものの段々かったるくなってきたところにメジャーCBSからのオファー!そりゃもう、そっちに行きますねぇ!(笑)

3+3

3人組から兄弟と従兄弟を加えた6人組に増強!
3人から6人になったからアルバム名が「3+3」って安易過ぎ?
安易だから大ヒット?・・・・シンプル・イズ・ベストです。

セルフリメイク版  That Lady
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Young isleys

若きコンポラ時代のアイズレー、まだ3人組です。
先の「3+3」所収の ” That Lady ” のオリジナル ” Who’s That Lady ” はこの頃でした。

オリジナル版 Who’s That Lady
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Long Way Back
アイズレー・オンリーな、T-Neck レコードでしたが唯一!と言っていい1982年産の大傑作アルバム。

ナチュラル・ハイやアウトサイド・ウーマンで有名な ブラッドストーンの ” Long Way Back ”
いまだ、名盤の誉れ高き1枚ながらリアルではタイトル曲がソウルチャート5位止まり(涙)

とは言え、SOUL/FUNK 好きなら知らない人はいないSide-A のバラード3連発・・・
① Go On And Cry
② How Does It Feel
③ We Go A Long Way Back

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カンペキです!

最後に、セールス面における貢献度を求めるための私なりの三か条を!

その一:ソロ、デュオ、グループ、バンドと形態は違えどもその時々の時代の変化を敏感に感じ取って自分たちの音楽に取り入れること。(ヒットする要素をしっかり入れる)

その二:黒人マーケットのみならず白人。。。と言うよりアメリカ以外のマーケットも見据えての戦略をマイノリティと言う意識を捨てて取り組んでいく。リスナーが味方です。

その三:自分達の権利をしっかり保ち、交渉事も妥協せずに進めていく。

スローガン:実はみんな黒人の様に歌って踊りたいのである!  黒人に憧れているのである!と思うべし。

こうしたことが出来て初めて、「売れるSOUL/チャート上位に来るSOUL」が作れるのだと思います。売らんがため?!と言うよりどうせやるなら。。。。?!と言う話です。

そこには、白人との関わりは不可避ではありますが。。。。。。。。。。。。。。。

因みに、21世紀の今もマイナーレーベルでのSOUL の世界は元気一杯です!(笑)